曳家の仕事には建築の資材や道具に加え、その道具で作業をする「人財」が必要だ。
人材と記さないのは社員である「人」は財産と考えているからだ。どんなに最先端の
立派な道具を使おうとも、使う職人の心が素直で純粋でなければ充分な仕事はできない。
それゆえ我社では心を大切にする職人としての社員教育を取り入れている。社是には
「我々は曳家という特殊建築の仕事に誇りを持ち、その技術によってお客様の大切な
“住み家”という財産を生かし再生し、心と体の安らぎの場を提供することを使命とする。
そして“もったいない”の精神を持ち、地球市民として地域社会に貢献する」と掲げ、
毎朝全社員が大きな声で唱和している。お客様の大切な家で仕事をさせて頂く時、
心を込めて大切に扱わせてもらうか。あるいは、古い物だからといってぞんざいに扱うのか。
その心構えで仕事の成否は決まってしまう。家は住む為だけのものではない。
その家で暮らしてきた方々の歴史や想い出、願いがこもっており、家族の立派な財産だ。
心無い職人が工事をするのでは、なんとも申し訳ない。昨今建築現場で業務に従事する
職人の数は減少してきている。ということは、当然引継いでいかなければならない伝統的な
建築技術の継承も難しい。だから今こそ家族の財産を大切にする心と優れた技術を持つ職人が必要だ。
私たちは特殊な建築技術を担っているという意識を強く持ちながら、
日本の伝統的な建物を守る職人を育てていきたい。
平成13年に岐阜新聞の「素描」でコラムを連載さしていただいたので掲載していきます。